北欧神話とは
北欧神話とは、キリスト教布教以前、スカンディナビアやバルト地方に住む北ゲルマン人の間で語りつがれていた神話である。
内容は、ノルウェーからアイスランドに移住したノルマン人の文献によって現代に伝えられている。古エッダ(9〜13世紀)と新エッダ(13世紀:スノッリ・ストゥルルソン著)、および数百のサガがそれである。
世界観
北欧神話の世界創世のくだりは、「炎と氷の国」とよばれるアイスランドの風土、そしてヴァイキングの尚武の気質を彷彿とさせて興味深い。
…太古の昔、宇宙には巨大な裂け目があるだけだった。その北には氷と霜の国、南には炎の国があった。氷と炎がぶつかって裂け目にしずくがしたたり、そこから最初の生物である巨人ユミルが生まれた。その後、氷の中から巨大な雌牛アウドムラが生まれた。
ユミルがアウドムラの乳を飲んで寝ているうち、寝汗から巨人たちが生まれた。一方、アウドムラがなめていた岩からは、最初の人間ブリがあらわれた。ブリの息子ボルと、巨人の娘の間に生まれたのが、オーディン、ヴィリ、ヴェーの3兄弟である。
巨人と対立した3兄弟は、力をあわせてユミルを殺した。彼らはその死骸を裂け目の真ん中にすえて、世界をつくった。ユミルの血から海を、肉から土を、骨から山を、頭蓋骨から天を、といった具合である。炎の国から飛んできた火花からは太陽と月がつくられた。
また彼らは2本の流木に生命を吹き込んで人間をつくり、大地の真ん中の国「ミドガルド」に住まわせた。ミドガルドの中央につくられた「アースガルド」には、3兄弟とその一族「アース神族」が住むことになった。
ところで、ユミルが殺されたときに流れ出た血の洪水によって巨人たちはみな死んでしまった。ただ1組の夫婦が生き残り、その子孫の巨人族が「ヨツンヘイム」という国に住んでいる。
神々は、自らと人間の住む国を守るためにつねに巨人族に備えているが、いつかは彼らとの戦争によって世界は終末を迎える運命にある。この最終戦争を、「ラグナロク」という。
主な神々
オーディン
アース神族の最高神。ふだんは全世界が見渡せる玉座に座り、戦においては8本足の馬スレイプニルにまたがり百発百中の槍グングニルを操る。片目とひきかえに知恵の泉の水を飲んで太古の知恵を身に付け、クワシールの霊酒を手に入れて詩を世にもたらした。また9日間木につり下がるという苦行の末、ルーン文字を会得した。ワルキューレという乙女たちを戦場につかわして、戦死した勇者の魂を集めている。宮殿ヴァルハラに迎え入れられた戦士たちは、昼は武芸・夜は宴会三昧の日々を送り、ラグナロクに備えているという。"Wednesday(水曜日)"の語源(古英語の"Woden"から)。なお、妻のフリッグは"Friday(金曜日)"の語源(Frigg)。トール
オーディンの息子で、アース神族最強の雷神。食べてもよみがえる不思議なヤギ2頭がひく戦車に乗る。投げれば必ず命中し手元にもどってくるミョルニルというハンマーによって無数の巨人を打ち倒し、神と人間の国を守っている。ただし、やや思慮に欠ける面あり。"Thursday(木曜日)"の語源(古ノルド語の"Thor"から)。
フレイ
北欧神話には、アー 北欧神話には、アース神族の他に「ヴァン神族」という神々の系譜がある(より古い時代に信仰されていた神々らしい)。世界ができてまもないころ両神族は戦い、人質を交換して和議を結んだ。その際、ヴァン神族からアースガルドにやってきたのがニヨルドと、息子フレイ、娘フレイヤである。フレイは豊饒の神とされ、妖精の国に住む。ひとりでに戦う宝剣を持っていたが、惚れた巨人族の娘を口説く際にこれを手放してしまい、ラグナロクの際に素手で戦うはめになる。
フレイヤ
フレイの双子の妹。美しい愛の女神。首飾りを手に入れるため4人の小人と寝るなどふしだらな面と、自分を捨てた夫を捜しに流浪するけなげな面をあわせもつ。ワルキューレを率いて戦場にあらわれ、戦死者の半分を連れ帰るといわれる。
ドイツ語の"Frau(英語のMrs.)"の語源。
チュール
軍神にして司法神。父は巨人ヒュミル。フェンリルを捕縛する際に右手を食いちぎられ、隻腕となる。"Tuesday(火曜日)"の語源(古英語の"Tiw"から)。
ヘイムダル
アースガルドとミドガルドを結ぶ虹の橋の見張り番。すばらしい目と耳の持ち主。ラグナロクがはじまる時、ギャラルホルンという黄金の角笛を吹き鳴らす。
イドゥン
食べると年をとらない「青春のリンゴ」を持つ女神。神々は時々これを食べることで若さを保っている。イドゥンがリンゴとともに巨人に連れ去られ、神々が老いはじめるという事件があった。この時はロキが彼女を取りもどしてことなきを得た。
ロキ
もとは巨人族であるが、オーディンと義兄弟となりアース神の仲間になった。知恵はあるがいたずら好きで、しばしば神々を困らせる。奸計をもってバルドルを死に至らせたのはその際たるものであり、この罪により鎖で洞窟に縛られ、蛇の毒をたらされるという罰を受ける。彼の妻が毒を鉢に受けることでロキを守っているが、鉢がいっぱいになるたびに中身を捨てなくてはならない。その間に毒は顔に落ち、ロキはもがき苦しむ。これが地震だといわれている。
バルドル
オーディンの息子で、光の神。彼の見た悪夢を心配した母フリッグが、世界のあらゆるものにバルドルを傷つけないという約束をさせた。しかし、唯一幼いために契約できなかったヤドリギがあることを知ったロキは、バルドルの盲目の弟ホズルにこの木を投げさせた。これに貫かれてバルドルは死に、ラグナロクが近づいたとされる。
神々の敵(巨人と怪物)
ウトガルド・ロキ
ヨツンヘイムに住む巨人の王。この地にやってきたトール、ロキを魔法でペテンにかけたが、逆に彼らの実力を思い知ることになる。
スルト
炎の国ムスペルヘイムの入り口を守る巨人。ラグナロクには炎の巨人たちをひきつれておしよせる。
フェンリル
ロキと、巨人族の女アングルボダの間に生まれた3匹の魔物のひとつ。おそろしく凶暴な狼で、世界をのみこむほど巨大に成長したため、神々によって捕縛された。ドワーフ(黒小人)がつくった魔法のひもによって岩に縛り付けられ、上あごと下あごの間に剣をつきたてられている。
ヨルムンガンド
ロキの息子である3魔物の蛇。オーディンによって海に投げ込まれたが死なず、ミドガルドをとりまくほどの大蛇に成長した。自分の尾を口にくわえた姿で、海の底に眠っている。ミドガルズオルムともいう。
ヘル
ロキの息子である3魔物のひとり。半身は肌色だが半身は青色をしている女神。戦死でなく、病気や老衰で死んだ者は彼女が支配する死者の国へ行くとされる。英語の"hell(地獄)"の語源。
ラグナロク(神々の黄昏)
北欧神話の最大の特徴は、ラグナロクという最終戦争によって神々が世界もろとも滅び去ることにある。
…バルドルの死によって世界は光を失い、3年もの間冬が続いた。太陽と月はフェンリルの子の狼に飲み込まれ、あらゆる封印は吹き飛んだ。解き放たれたロキは巨人族を、ヘルは冥界の亡者を、スルトが炎の巨人たちを率い、フェンリルとヨルムンガンドもアースガルドに押しよせた。ヘイムダルの吹く角笛によって敵襲を知った神々とヴァルハラの戦士たちは、アースガルドの前にひろがるウィグリドの野に出撃し、最後の戦いがはじまる。
オーディンはフェンリルに飲み込まれたが、息子ヴィダルがフェンリルの口を引き裂いてかたきを討った。トールはヨルムンガンドを撃ち殺したが、その吐き出した毒を受けて倒れた。チュールは地獄の番犬ガルムと、ヘイムダルはロキと相討ちになり、宝剣を失っていたフレイはスルトに倒された。そしてスルトが投げつけた炎の剣によって世界は火の海につつまれ、海の底に沈んでいった。
しかしその後、新しい陸地が浮上し、新たな太陽が生まれ、バルドルもよみがえった。ヴィダルなど数名の神は生き残り、アースガルドの跡地に住まいを建て直した。また男女1組の人間が森の中で生きのび、彼らの子孫が地を満たしたのだという。
コメント
ついでに中国の常蛾あたりもどうです?w